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みやび☆りゅうの「わたくしスタイル」

エンタメ系Webライター兼、新米パパの雅龍(みやび☆りゅう)がお届けする、様々なこと。

「世界からバナナが消えたなら」

Web小説 ショートストーリー

「世界からバナナが消えたなら」

 by 雅☆龍 この物語はフィクションを元にしたフィクションです。

 

 

あなたの大事な物は何ですか?

あなたはそれを本当に大事にしていますか?

 

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月曜日

朝目覚めたら妙に頭が痛い。

ボクはとりあえずバナナを取り、皮をむいた。

バナナは万病に効くと誰かが言っていたはずだ。

嘘かもしれないが。

バナナを一口食べると甘美でありながらもっさりとした味が口いっぱいに拡がった。

頭痛は結構ひどい。

痛みに耐えながらも、ボクは郵便配達の仕事に行くために着替えた。

身支度をしている間にもボクはバナナを1本、2本と食べた。

都度皮をむいていたが、だんだん頭痛がひどくなってきて、3本目をむき始めたところで意識が朦朧としてきた。

そしてとうとう玄関の扉を開けたところで、バナナの皮で転び頭を打って、ボクは意識を失った。

 

 

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……目を開けると、白い天井が目に入った。

白衣を着た人物がボクを見ていた。

「意識が戻りましたか」医者らしき人物がボクに話しかける。

ここは、病院?

そうだ頭痛がひどくなって、その後の記憶がない。

「あなた、脳腫瘍で明日死んでもおかしくないですよ。とりあえずもって1週間でしょう」

いきなりの余命宣告に、ボクはおののいた。

あまりにショックな出来事が唐突に訪れたので、バナナを食べようとどこにあるか探すと、それはサイドテーブルに置いてあった。

皮の端に割れが入ってしまっていたが、とりあえずむく。

「余命宣告なんて、そんなバナナ」

数世代前のオヤジギャクを装って、その絶望的な言葉は世界に放たれた。

 

 

すると突然、ボクの横に人影が表れた。

それはアロハシャツを着たボクそっくりなデクノボーだった。

「わい、悪魔やで。あんた明日までの命やけど、世界から何かを消したら1日寿命延ばしたろやないか」

唐突過ぎてどうしていいのか分からず、ボクはおのののか。

スマホで水着画像を検索している場合ではない。

驚き過ぎてとりあえず、バナナを食べた。

バナナには鎮静効果があると誰かが言っていた。

嘘だと思うが。

悪魔はそんなボクを憐れむような目で見て言った。

「あんたまだ生きたいやろ。そんじゃま、手始めにチョコレートを消したろか」

「待ってくれ、チョコはボクの大好物なんだ。消されたら明日からボクは何をバナナにかけて食べればいいんだ」

「そないなことゆうても、消さんかったら明日あんたは死ぬんやで」

「チョコが無かったら生きていけない。チョコがなければバナナと生きている意味がない」

ボクは悪魔にそう言いつつ、バナナを手に取った。

「ボクは明日、チョコレートのためにバナナを捨てます」そんな覚悟をバナナに語りかけてみた。

直後、悪魔が言った。

「もう、消したで」

自分が何を悪魔に対して主張していたのか思い出せなくなった。

脳腫瘍のせいかも知れない。

 

 

 

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火曜日

ボクは余命わずかにも関わらず、入院はしなくても良いとのことだったので家でボーッとしていた。

せめて死ぬまでに10個くらいなにかしようと考えていたが、何をしたらいいのか一向に思い浮かばなかった。

脳腫瘍のせいかも知れない。

「どや、世界はなんか変わったか?」悪魔がボクに尋ねるが、ボクには特にいつもと変わらない日常だった。

なのでボクは「別に」と一昔前のお騒がせ女のようなリアクションをとって、バナナを頬張った。

「ほな、今日は猫を消そか」

猫、死んだ母が飼っていた猫。キャベツ太郎。

ボクのハンドルネームの由来でもある大事な猫。

モーフモーフとした感触が愛おしいキャベツ太郎。

「そんな、キャベツ太郎がいなくなったら、ボクは生きていけない!生きている意味がない!」

そうボクは悪魔に告げた。と同時にボクの手は無意識にバナナを房からちぎり

「モーフモーフ」と言いながらむいたバナナを一口大にむしってキャベツ太郎へ差し出した。

直後、悪魔が言った。

「もう、消したで」

ボクが差し出した右手のバナナは、虚しく宙に浮いていた。

自分が何を悪魔に対して主張していたのか思い出せなくなった。

脳腫瘍のせいかも知れない。

 

 

 

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水曜日

相変わらずボクは死ぬまでにしたい10くらいのことについて考えていたが、やはりしたい事が浮かばない。

ボクはバナナを手に取ると、皮をむきながら思った。

バナナの反りは、ボクのモノと似ている。

すると以心伝心したのか、元カノからメールが来た。

「元気?明日ボク君の大好きな映画が上映されるから観に行かない?」

何が「元気?」だ。ボクは脳腫瘍で今週いっぱいの命だというのに。

だが不思議と自分が死ぬのだということを意識すればするほど股間は力強く頷いた。

ボクは映画を観終わった後の元カノとの展開に、結構大きめな下心を持って即レスした。

「OK牧場!」

そうだ、このギャグのセンスの無さで彼女と別れたんだった。

ボクの胸は小さく痛んだ。

でもよく考えたら、ボクの心にはそんな小さな痛みがたくさんある。その小さな痛みのことを、人は後悔と呼ぶのだろう。

悪魔は、そんなボクを見下したような表情で見ると衝撃的な一言を発した。

「明日は映画を消したろかな」

ちょっと待ってくれ、映画はボクの大好きな娯楽だ。しかも明日元カノと映画を観に行く約束をしてる。

もしこの状況で映画という目的がなくなったら大きな下心しか残らないではないか!

ボクは猛烈に悪魔に反抗した。

「鬼! 悪魔! バナナ!」

悪魔に対して、鬼も悪魔もない。ましてやバナナとは意味不明だ。

直後、悪魔が言った。

「もう、消したで」

自分が何を悪魔に対して主張していたのか思い出せなくなった。

脳腫瘍のせいかも知れない。

 

 

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木曜日

とりあえず昼過ぎに元カノと待ち合わせをしていたので出掛けた。

会ってもお互いなんのために待ち合わせしたのかが分からず、しばらく変な空気が続いた。このままボーッとしていても仕方がないので、「とりあえずバナナを食べよう」と誘ってホテルに行った。

 

結構な運動量をこなして、そろそろ休憩時間が終わろうかという頃だったので、ボクは左腕につけた、時計職人だった父からもらった腕時計を見た。

まだ20分くらいあったしバナナで必要なカロリーは補充していたので、もう1ラウンドくらい行けるかと思い元カノを抱き寄せたところで、なぜか彼女は手紙を差し出してきた。

死んだ母が彼女に託したボク宛の手紙だった。

訳も分からずその手紙を読んだ。

そこにはボクと仲違いしている父について、仲直りするように書いてあった。

父は母をイジメているものと思っていたが、まさかそれがただのプレイの一環だったとは!

全てはボクの勘違いで、二人はお似合いの夫婦だったのだ。

死んだ母の手紙を読んでいたら、思わず涙が出てきてしまった。

ボクは彼女の胸に顔を埋め涙を拭うと、むくむくとしてきたボクのバナナを感じ、もう1ラウンド対戦をした。

ボクが果て、彼女がシャワーを浴びに行くと気がつけば休憩時間を過ぎてしまっていた。

明日ボクは死ぬかも知れないというのに延長料金が妙に惜しく感じ、悪魔に時計を消してくれるように願った。

「消したったで」

おかげで延長料金は払わずに済んだ。

左腕に感じていたはずの重みがなくなった気がする。

それは何かとても大事な重みだった気がする。

 

元カノとの別れ際、ボクは自分が余命わずかだという事を打ち明けた。

彼女は泣いた。

ボクはそんな彼女を見ていられず、バナナの皮をむき一口頬張った。

バナナは、少ししょっぱかった。

今日も世界は動いていた。 

 

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金曜日

そろそろボクの余命も尽きる頃だが、なんだか意外に元気だ。

頭痛もしない。

バナナか脳腫瘍のせいかも知れない。

悪魔は次々に世界から物を消しているようだが、もはや概念として存在しなくなった物を思う術はなく、ボクはただ普通に生活を送っていた。

さっきTSUTAYA(ツタヤではない)から返却の催促の電話があったが、先方も何を返却して欲しかったのか分からないようで、よく分からない電話だった。

ボクはなんだかよく分からない動物の絵の描いてあるボウルに水やエサを補充したが、なぜそうしたのかが分からなかった。

とりあえずバナナを食べる。

バナナ1本を食べる時間はどのくらいだったろう?

時間という概念は分かるが、誰もそれを測っていないので、時間が大雑把に流れている気がする。

これはこれで良い物かも知れない。

みんな仕事はどうしているんだろうか。

ボクは病気を理由にとりあえず有休をもらっていたので、ここしばらく郵便局には行っていない。

非正規社員なのであまり休むと解雇の対象となりそうだが、明日死ぬかも知れないのに仕事の過酷な労働で死にそうになりたくはなかった。

人は労働しなくては食べていけないが、労働しても生きていけないかも知れないなら働く意味とはなんだろう。

 

ボクは死ぬまでにしたい10くらいのことについて考えたが、そもそもそんなに思いつくものでもなかった。

食べログで有名になったバナナパフェの店やバナナパンケーキの店にでも食べに行こうか?

そのくらいのことであった。

とにかくバナナを食べることがボクには重要な気がしていた。

 

その夜、悪魔は言った。

「明日は電話が消えるで」

電話がなくなるのか。最後に話したい相手は誰だろう。

そう考えて昨日会った元カノに電話をした。

「昨日借りたホテル代、ボクの香典から引いておいてくれ」

そう言い放つと彼女は泣き始めた。

ボクが死ぬことを悲しんでいるのか、それとも別のことに泣いているのか分からなかったので、ボクはそっと電話を切ろうとした。間違えて一瞬バナナをそっと押したが、気を取り直してスマホの画面を押し直した。

電話がなくなるということは、もうこうした絶妙なやりとりもできなくなるのか。

途端にボクは寂しくなった。

その後、疎遠になっていた父に電話を掛けてみた。

電話からはむなしくコール音が響くだけで父が電話に出ることはなかった。

「電話にでんわ」

”そんなバナナ”を超える親父ギャグに僕の心は痛んだ。

もしかしたらこのまま父親と会わずに、ボクは旅立つのかも知れない。

 

 

 

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土曜日

朝らしい日差しで目覚めると、いつもの習慣でバナナを食べた。

以前これに似た感触で「受話なんとか」という物が付いた「電なんとか」という物があった気がする。

だがそれはなんだったろうと結構長い間考えたが思い出せなかった。

どのくらいの長さだったか、そもそも時間を測る物がないので、どのくらいの長さかもよくわからないのだが。

ボクは悪魔の消し去ったものがなんなのか想像してみた。

だが、すべてなくなっても特に生きることに影響はないようだ。

バナナがあればとりあえず生きてはいける。

ボクはバナナがない世界を想像してみた。

まったく想像ができなかった。

もし悪魔が「次はバナナを消す」などと言い出さないか心配だった。

 

「次はバナナを消すで」

悪魔がボクの想像通りの最悪な言葉を発したとき、忘れていた頭痛がよみがえってきた。そのせいでボクはフーラフーラとよろめいてしまった。

もうあの黄色くて、何かを彷彿とさせるような太さと反り具合を表現する果物がなくなるのだ。

もう朝バナナだとか夜バナナだとか、硬すぎず柔らかすぎず絶妙な舌触りの果物を、もう頬張れなくなるのだ。

ボクは唐突に涙腺が緩み、涙が溢れてくるのを感じた。

そこにあるのが当たり前で、当然いつまでもうまくやっていってくれるものだと信じて疑わなかった。

スーパーに行けば入口すぐの陳列台で出迎え、下手をすればひどく安い価格で叩き売られるバナナが目の前から姿を消すわけがない。

でもそれは違った。

バナナって複数品種がスーパーにあるんじゃない、単一品種だったんだ。

疾病が流行って感染すれば、簡単に絶滅してしまう。

だから種無しバナナの主流が「グロス・ミシェル」種から「キャベンディッシュ」種に取って代わられることになったのだ。

 

もし明日バナナがなくなるのであれば、これまで茶色の斑点の浮いた格安のおつとめ品しか買っていなかった自分に対して、とてつもなく罪悪感を感じた。

せめてビニール袋に入れられ、金色のテープで留められ、ブランドのシールの貼られた高級品を買えば良かった。

それほどボクにはバナナが生活の一部になっていたのだ。

ボクは、悪魔だというボクそっくりなデクノボーの胸に泣きながら拳をぶつけ続けた。何度も、何度も。

だが悪魔はビクともしなかった。

ボクは余計に悲しさが増して、号泣しながら床にへたり込んでしまった。

 

「そんな大事なもんなら、なんで今まで大事にしなかったんや」

 

悪魔はそう言って、夜の闇に消えていった。

 

 

 

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日曜日

日の出とともにボクは目覚めた。

ボクの人生に何かが足らない気がしたが、それが何かは分からなかった。

顔を洗い歯を磨き、久しぶりにゆっくりとリンゴをむき朝食を食べた。

昨晩泣きすぎたのか目が腫れていた。

悪魔が消したものが、どれほどボクにとって大事な物だったかということは分かる。

だが、それが何かということすら既に分からなくなっていた。

 

時がすごくゆっくりと流れている気がする。

 

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ボクは、仲違いしていた父に会いに行こうと思った。

悪魔が何を消したのか分からないが、この間元カノから渡された母の手紙が心に重くのしかかっていた。

単なるボクの思い違いで父に冷たく振舞ったことを恥じていた。

今となっては唯一の肉親に会うことだけが、死ぬ前にしたい事だ。

ボクはこれまでの自分の行いを反省し、父への思いを手紙にしたため、郵便局員の制服を着た。

さあ、行こう。この手紙を届けに。

行って、父に謝ろう。

家族以上に大事なものがあるんだろうか。

たとえ何が世界からなくなろうと、人が存在するためには必ずその両親が存在する。

連綿と続く人間の時代を築いてきたのは、家族のつながりなのだ。

たとえ明日死ぬとしても、その思いを伝えよう。

 

「大事なものを大事にするのは、今からでも遅くはないんだ」

ボクはそう呟いて、玄関のドアを開けた。

黄色い悪魔の皮は、もうそこにはなかった。 

 

 

(了)

 

 

 

 

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