国土交通省が平成24年に設置した「持続可能なまちづくり研究会」という組織がある。
国土交通省では、高齢化・人口減少の進行する中で、重要な課題となっている地方都市を含めた持続可能で活力あるまちづくりについて、省エネ・環境重視型の都市への変換を促すための低炭素まちづくりの推進という観点から、今後の持続可能なまちづくりの方向性及び具体的手法について検討を行うことを目的として、「持続可能なまちづくり研究会」を設置することと致しました。
とのことだが、確かに現象に対しての対策を図るのは当然のことだが、この「持続可能なまちづくり」に対して根本的な問題があると私は思うので、ここで取り上げてみたい。
持続可能なまちづくりについて
持続可能なまちづくり研究会の目的については先の引用の通りだが、検討事項としてあげられているのは下記の2点である。
・持続可能なまちづくりに向けた、都市再生の方向性に関する検討
・具体的な事業手法の検討(UR都市機構の活用、民間活力の活用等)
そして、その資料の中での課題としてあげられている事項がある。
http://www.mlit.go.jp/common/000209471.pdf
上記pdfの2ページ目に記載のある下記の事項である。
(1)持続可能なまちづくりに向けた課題
1 低炭素・循環型のまちづくり
・ 都市の社会経済活動に起因する二酸化炭素排出量の増大を抑え、都市の低炭素化を図るため、都市機能の集約化等を目指すまちづくり計画の策定、低炭素建築物の整備促進等が必要。
2 高齢社会に対応したまちづくり
・ 人口減少傾向の中、大都市郊外の大規模住宅団地及びその周辺で、人口減少、高齢化、施設の老朽化が顕著。高齢者の居住施設、医療・介護サービス提供施設等の不足に懸念。
3 安全性・防災性の高いまちづくり
・ 東日本大震災を契機に都市の防災性への意識が高揚。大都市の拠点駅周辺での安全確保、その周辺の密集市街地の整備改善、老朽化マンションの安全性向上等が急務。
4 活力と魅力のあるまちづくり
・ 地方都市等で、中心市街地の活性化に加え、長期に利用されない空家の活用等が課題として顕在化。
5 官民の連携等による持続可能なまちづくりの実現
・ 多様・複雑な課題を解決し持続可能なまちづくりを実現するには、官民が役割を補完し連携すること、既存ストックを十分に活用すること、まちづくりの専門家を活用することが重要。
大雑把にざっくりとまとめると
- 環境に優しくしようよ。
- 高齢化大変だよね。
- 地震とか古い建物怖くない?
- 地方って子供が都会出ちゃって空き家多いよね。
- 政府や地方自治体だけじゃ出来ること限られるから、民間の人も手伝ってよ。
ってな感じです。
おっしゃることは「さもありなん」というところですが……
本当にこれで大丈夫?
縦割り行政の弊害か、真因から目を背けた課題選出
先に挙げた課題に対して、なぜこれを課題としたのかが私には理解できません。
「本来の真因は他の省の管轄だから、うちはうちでやれることやっとけばいいや」
と言っているとしか思えません。
まず1からして問題。
地球に優しい「低炭素建築物の整備促進」を進めるというのは本当に馬鹿げている。
新しい建物建てずに、旧来の建物を再利用した方がどれだけ炭素排出量が少ないことか。
二酸化炭素の排出量が少ない、地球に優しいとかマジックワードで、お役所は麻痺してるんでしょうか。結局、「建て替え需要の促進」と、「都市部への生活インフラの集中的整備」をすれば官民丸く収まるでしょと言わんばかりです。
お金が動くっていうことですよね。炭素排出量を本気で考えているとは思えません。
そもそも二酸化炭素の排出量も家畜や人間の増加による要因もあるわけですから、建物に頼った排出量の制限なんて、たいした効果はありません。
そして2。
大都市郊外での人口減少が顕著で、高齢者の居住、介護、医療サービスの不足に懸念とのことですが、そもそも人口減少した真因を見ようとしていない。
そもそも官民揃って、「ここ街にしたら良くない? 儲からない?」って発想で、一気に作って一気に売り出して、一気に入居して一気に高齢化。
原因わかってるなら持続させるために何をしたらいいか。
よく例を挙げられるのが民間企業の山万が開発したユーカリが丘の事例ですよね。
千葉県佐倉市にあるユーカリが丘は、この手の話でよく話題になりますが下記の記事などを参照ください。
奇跡のニュータウン、ユーカリが丘に行ってきました (1):永井孝尚の写真ブログ:オルタナティブ・ブログ
ユーカリが丘がすごいのは、1980年の入居開始以来、一貫して人口と世帯数が増え続けていること。
同時期の1970-1980年代に開業した他のニュータウン(多摩ニュータウンなど)は、30年以上経った現在、急速に高齢化しており、社会的な問題になっています。
実は日本のほとんどのニュータウンでは、計画戸数をすべて一斉に分譲して、売り切った後の管理は他の会社に任せる形になっています。こうすると同じ世代の人たちだけが街に住むことになり、数十年後には街が一斉に高齢化することになるのです。
しかしユーカリが丘では、子どもたちが沢山いて保育園もいくつかありますし、様々な年代の人たちが暮らしています。30年前に入居してご年配になったお子さんたちもユーカリが丘に住み、親子三代で同じ街に住んでいるケースも多いそうです。
では、なぜユーカリが丘が高齢化しないのかというと、「毎年販売するのは200戸(平均)」という方針を1979年の分譲開始以来、継続し続けているからです。このおかげで、常に若い世代が街に入り続けています。
そう、人口の流入量を制限することによって居住世代が集中することなく、またインフラの整備も民間企業が自ら行い、計画的に行ったのです。
他都市との年齢バランス、人口の動きに関しての比較は東大大学院の方の論文にありましたので、参考にご覧ください。
ユーカリが丘の開発手法に関する評価と検証
http://www.ut.t.u-tokyo.ac.jp/hp/thesis/2014/04_kotani.pdf
また先ほど挙げた記事にその年齢バランスを保つ仕組みが詳しく記載されています。
(引用元)奇跡のニュータウン、ユーカリが丘に行ってきました (1):永井孝尚の写真ブログ:オルタナティブ・ブログ
先に書いたように、ユーカリが丘では総計画戸数8,400戸に対して、現在6,900戸ですので、残りはあと1,500戸。7−8年で新分譲分は完売になります。(ただ新設マンションなどで若干増える可能性はあります)
ではこの後はどうするか?
そのために「"シニア"ハッピーサークルシステム」というリロケーションの仕組みを用意しています。
(中略)そこで山万さんでは、一戸建てから、同じユーカリが丘内にあるマンションや老人ホームへの住み替えをサポートしているのです。(中略)買い取った一戸建ては、山万さんがリフォームし、新たに子育て世代に販売します。
やはり消費力が高く元気いっぱいな若い世代がいることが、街の活性化に繋がるのです。(中略)山万さんは、他にも高齢者向け施設、保育施設、学校、貸し農園、商業施設のテナントなど、ユーカリが丘の街作り全体を手がけておられます。3年かけて保育園と高齢者施設を統合した幼老統合施設の認可も取られています。
山万さんは非公開企業です。短期利益を追求せず、長期的な視点で常により魅力的な街作りに邁進された結果が、今のユーカリが丘になっています。
(中略)先見性に加え、地道な努力の積み重ねが、奇跡のニュータウンを生み出したのですね。実際に、ユーカリが丘では、実に様々な面でサステイナブルな街を実現しておられます。
そうです。
持続可能な都市。本来の意味でサステイナブルな街というのは、適正な年齢人口バランスを保ち続けられる街です。
「持続可能なまちづくり研究会」で課題に挙げられている内容に、年齢人口バランスを保つといった内容は挙げられておらず、「まちづくりの専門家を活用」することが大事と最後にポツリと述べられているだけです。
内閣府の挙げる少子化対策窓口は下記のリンクにありますがやはり内閣府と厚生労働省が大きな役割を果たす窓口でしょうか。
12 少子化社会対策担当窓口一覧|平成17年版 少子化社会白書(本編<HTML形式>) - 少子化対策:政策統括官(共生社会政策担当) - 内閣府
ただ、ここに多く窓口として掲載されていますが、どうもうまく連携を取っていないように感じてしまいます。
それが、保育園問題です。
以前市川での保育園開園断念のニュースの時にも、ブログで取り上げました。
少し言い過ぎな部分もあるかも知れませんが、以下のような意見を書かせていただきました。
今回の保育所問題などは、行政側が都市整備計画と合わせて時間をかけて本来進めるべき内容であったのだと思う。
突発的な事象として扱い、多数決することなどもってのほかだ。
日本としても、地方としても、経済を回すためには人口を増やすことに注力するべきなのに、行政側がその素地となる保育関連へなぜもっと注力できなかったのか。
そして子供を預けることによって、より労働できる人が増え現在の人材不足への対処ができるところをないがしろにしてきた。
ビジョンを持った人の意識が末端まで到達していないのだ。この日本という動物の末端神経が麻痺したまま成長しても、端から壊死が始まってやがて生命活動に支障をきたすようになるであろう。
地方自治体の再編によるマッサージや、少子高齢が予想される都市部の区に向けて人口を増やすリハビリが必要なのだ。
労働の場である大企業を優遇したとしても、労働する人がいなければ、それは海外に求めたりすることになるであろうし、たとえ国内で賄えたとしても、労働人口が減り続ければ風前の灯火である。
そう、結局持続可能な建物を作ろうが、高齢者施設を作ろうが、そこに暮らす人々が年寄りばかりなら、持続しようにもできないんですよね。
今日また気になるニュースがありましたね。
例え日本が持続可能な島国になろうとも、その上に乗る人がいなくなったら全く意味がない。本当の意味でのサステイナブルな国とは何かを考えて行動していかないといけない。
例えばアメリカの大統領候補選のトランプのような、扇情的な煽りに乗るような、その場その場の感情や利益で動く人々の意見を排除して、本当に先のことを考えて動けるヴィジョナリィ(先見性を持った人)が意見を出し合って改善していかないと改善できない問題だと思います。
まちづくりを議論する時には日本の未来が掛かった問題だということを認識して、もう少し踏み込んで、考えるべき内容なのではないでしょうか。
少子高齢化を直ちに改善することはできないので、今までの経済成長が毎年望めた時の制度が未だに維持されたままの日本では、国ごと沈んでしまう可能性もあります。
一過性のまちづくりの提案ではなく、総合的に見た「国づくり」を始めなくてはいけない時期に来ているのではないでしょうか。